1.はじめに(ピアノ録音をしよう)

Index
はじめに ← イマココ
曲を作ろう
機材をそろえよう
録音場所を確保しよう
録音をしよう
編集しよう
CDを作ろう
終わりに
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・はじめに

 音楽制作において、今や録音というのは必須ではなくなりつつある。ソフトウェア音源はありとあらゆる楽器をカバーしているし(例え音源が無い楽器があったとしても、それは楽曲中必ず必要だろうか)、編集作業だって全てPCで完結してしまう。一般的な聞き手にとっては、生録だろうが、アナログマスタリングだろうが、正直どうでもいい。ある人曰く、私たちは音を聞いているわけではなく、音楽を聞いているのだから。

 この文章は、極めて個人的な音楽制作者が、ピアノだけの曲を録音するにあたり読むことを想定している。ここで言う“極めて個人的な”とはどういうことかというと、一に作った音楽で生計を立てようとしていないこと、二に自分の作品に多少にしろこだわりを持っていて、ある意味聞き手に押し付けても仕方なしと考える、もしくはそもそも他人に聞かせることを目的としていないこと、以上の2点を満たす人だ。

 もし、あなたが音楽で生計を立てようとしているならば、ある程度キャッチーな音楽(例えば技巧を凝らしたものだったり、非常にたくさんの楽器が必要だったり)を作る必然性が出てくる。世間の大多数の人はピアノ一本のオリジナル音楽なんて求めていやしない。考えてもみよう、クラシックポップス問わず、ピアノ一本の音楽で生計を立てた音楽制作者は存在するだろうか。せいぜいジョージ・ウィンストンぐらいだろう。あなたが、第二のジョージ・ウィンストンを目指すなら、止めやしないけれど。

 もし、あなたが自分の作った音楽を聞く人を想像しているならば、自分でピアノ録音をするのはおすすめしない。世間の大多数の人にとってミスタッチはミスタッチだし、ノイズはノイズだ。誰も表現として認めてくれない。あなたが自分の作った音楽を、少ないテイクで完璧に弾けて(当たり前だけどテイクが重なれば重なるほど時間はかかるし、使用料はその分かさむ)、ノイズもなく録音できるならば、本記事を読む必要はない。そして、それは簡単にソフトウェア音源で実現できてしまう。

 もし、あなたが極めて個人的な音楽制作者ならば、是非自分でピアノ録音にチャレンジしてほしい。
 ピアノ曲を作った、でもソフトウェア音源では“何か”違う。もっとタッチを変えて演奏してみたいし、音だって良くしたい。その何かを埋めるために、自分で弾いて録音するんだ。確かに困難はある。家でキーボードを弾くのと違って、グランドピアノは鍵盤が重いし、緊張していつものように弾けないし、気分転換さえも慣れるまでは大変だ。終了時間も迫ってくる。時間は有限だということ、そしてお金だということを実感するのは、風俗だけではない。それだけのものを犠牲にしても納得した録音できるとは限らない。ペダルが異様に大きく鳴っていたり、気分が乗りすぎていてピークを超える音量で演奏してしまったり、音が変だったり、何かよく分からないノイズが入っていたり、失敗は必ずある。でも、それを恐れていては“何か”を埋めることは出来ない。そして、その失敗にも耳を傾けてほしい。自分の表現する何かは音符で表せることだけではないんだ。何かが、いつか埋まることを信じて、録音をしてほしい。

 本書では、以下の項目に沿って説明をしていく
・はじめに(本項)
・曲を作ろう
・機材をそろえよう
・録音場所を確保しよう
・録音をしよう
・編集しよう
・CDを作ろう
・終わりに

 当たり前のことだけども正解は無い。何かは何かであって、内容は人それぞれだし、実は録音では解消しないのかもしれない。でも、私たちは録音をすることで、何かが解消されていくことを感じている。もしかしたら、何かは埋まっていなくて、ただ録音という現象にまぎれているだけなのかもしれない。そういう魅力が少なからず録音にはある。

 内容には少なからず偏りがあると思う。内容にしても、物の見方にしても、考え方にしても。そういうのに気がついても、申し訳ないけれど御容赦してほしい。私たちは極めて個人的な音楽制作者だし、実体験に基づくものだからだ。本記事を作るにしても、それが当てはまる。誰かに何かを伝えたいのではない。あなたとは私なのだ。自分に対する戒めのようなものなのかもしれない。私的な文章だけども、そこから何かつかみ取ってくださることを期待する。