アンチスケーティングは何のために?

うちでの最狂音溝はTelarc OmnidiscのSide3, あの1812の大砲が2dB上げながら4回繰り返す部分です。テストディスクは反則と言われたら、同じくTelarcのスラットキン カルメン組曲の最終部。普通の1812など、他トラッキング難盤はカートリッジをEMT->Gradoにして再生できるようになりましたが、この2つは相変わらず無理でした。

もっとも、ここ数年トラッキング難盤は半ばあきらめていた部分があります。現用のGrado Statement 2は"One of the world’s most stable tracking phono cartridges"と評されるだけあり、うちの環境でもEMTでさえトレースできなかった溝をわずか針圧1.6gで軽々トレースできています。この2枚に関しては、まあ、Telarcがやり過ぎなだけなんじゃないかなと思っていました。

言うまでもなく針が飛ぶ原因は1つじゃありません。例えば、スタイラスの追従性が音溝の振幅を超えていたり、音溝が正常じゃなかったり、針圧が軽すぎたり、インサイドフォースキャンセラー/アンチスケーティングが適正じゃなかったり、、、。思い浮かぶ要素はたくさんあります。

その中でやっていないのはアンチスケーティングの設定でした。というか、自分は、はっきり言ってアンチスケーティング反対派で、かけてなかったのです。スタイラスに対してかかる力をカートリッジボディに対してかけたところで、何の意味もないと思っています。本来であればダンパーに対してかけなきゃいけないのを、どう作用すればボディにかけることで代替できるのでしょうか。

何か解決策はないかと、ふと、針飛び風景を動画を撮ってみて、よくよく観察してみると、これはスタイラスがトレースできていないというより、カートリッジ自体がぶっ飛んでいるように見えます。言い換えれば、トーンアーム系の質量とカートリッジのダイナミックコンプライアンスによる共振周波数が音溝の周波数にかかって、動作が増幅されるがゆえの問題とも。ということは、その増幅にリミッターをかけてあげれば良いんじゃないかと思いつきました。
その増幅は、インサイドフォースが働くので内周側に向かっている量が多いと言えるでしょう。根本的解決にはならないですが、アンチスケーティングは、それの動的リミッターになるんではないかと考えついたのです。

案の定、Artemizのアンチスケーティングをかけると飛ばなくなりました。でも!音が良くない。躍動感が無くなる、端正になる、抑揚が無くなる、これは滑らかになったんじゃなくて出るべきところがきれいに削り取られている。これなら2枚のためにやる必要はありません。よく考えてみると主目的はトレースによるインサイドフォースではないですから、かける量は針圧と関係ないありません。Artemizの目安よりももっと軽くして良いはずです。標準のもっとも軽い設定にしてもダメ。スプリング部から調整してギリギリテンションがかかっているかかかっていないかぐらいのところにして、リファレンス盤でようやく納得ができるところまでできました。上の2枚だけでなく、カッティングレベルが高い盤の特に低域がドッカーンと鳴ったときの重心も安定したように思います。アナログって面白いですねえ!

というわけで、アンチスケーティング反対派から、アーム動作の動的リミッターとして使う場合のみ賛成派に宗旨替えしました。

アンチスケーティングをかけた時とかけない時の比較動画
https://youtube.com/watch?&v=HCeGd82D-ZM